02/08/12 (Wed)
日本国債と家計金融資産
最近特に話題になることが多い日本国債と家計金融資産。ここでちょっと実態を把握しておきたいと思い、少し調べてみました。

まず、「日本政府は巨額の借金をしている」⇒「その大部分は国債が占めている」⇒「その国債を買っている(つまり国にお金を貸している)のは主に国内の銀行、保険会社、年金といった金融機関」⇒「その資金は主に国民の預貯金や保険料」⇒「よって、国民は間接的に国債を買っていることになる」⇒「財政が破たんすれば、そのツケは国民に回ってくる」、という状況があります。

一方で、「国民の金融資産は約1400兆円ある」⇒「国債・借入金残高は約1000兆円」⇒「よって、まだ大丈夫(?)」という話もよく聞きます。

では、この1400兆円という数字はどこから出てきたのでしょうか?それは、日銀が発表している「資金循環統計」の「家計金融資産」です。具体的には、全体から政府と企業を差し引いたもの。でも、政府と企業を引いた金融資産が、家計(つまり個人)の金融資産とイコールになるのでしょうか?

2011年9月末の速報値の1471兆円を日本の総世帯数(2005年現在で4906万3000世帯)で割ると、一世帯あたりの平均は約2998万円になります。一部の資産家が平均値をゆがめているにしても、年収の分布が100万円以上400万円未満に偏っている日本において、3000万円近くが平均というのはちょっと大きすぎるような気がします。でも、ここでいう「個人」には「個人事業主」が入ることがわかり、納得しました。

ここで注意しなければいけないのは、純粋な個人の金融資産と個人事業主の金融資産とでは、その性質に違いがある点です。例えば、個人の金融資産は将来に備えた長期的なものが多いと考えられるのに対し、個人事業主の金融資産は負債を伴う可能性が高く、さまざまな投資に使われる事業性の資金です。つまり、個人事業主の金融資産は、金融機関が長期的な国債保有に充てるには、極めて不安定な資金源ということなります。

代わりに、より安定的かつ実態に近いものとして適切と思われるのは、総務省の「家計調査」の「貯蓄・負債編」です。ここでいう「貯蓄」には、「通貨性預貯金(普通銀行、郵貯など)」、「定期性預貯金(普通銀行、郵貯など)」、「生命保険など」、「有価証券」が含まれます。本来はここから住宅ローン(個人の負債の大部分を占める)を差し引くとさらに安定的な資金になりますが、まあそこまではしないでおきます。

ここで、これまでに見てきた資金循環統計ベースの家計金融資産、家計調査ベースの家計貯蓄、金融機関が実際に保有している国債の総額、そして国債残高(ここでは内国債の2011年度末見込みを使用)をずらーっと並べてみたのが下のグラフです。





うーん…個人事業主を含む金融資産だけが大きく、あとはほとんど変わらず、という結果になってしまいました。興味深いのは、金融機関の国債保有残高が家計貯蓄に限りなく近いという点です。これには2つの意味があると考えられます。

1つは、金融機関の国債保有残高が家計貯蓄を超えていないのは、やはり個人事業主の資金が実質的には長期投資に回しづらいことの表れではないか?ということです。そうだと仮定して、2つ目は、金融機関が国債を買う能力はほとんど限界に達している可能性があるということです。果たして今後、家計貯蓄を大きく上回ることはあるのでしょうか??

これらの項目を時系列で見たのが下のグラフです。65歳以上の総人口に占める割合も加えてみました。





うーむ…実に恐ろしい結果です。家計金融資産の減少ペースは想像していたよりも緩やかでしたが、国債の増加ペースが激しすぎます。そして、国債が大幅増加しているにもかかわらず、金融機関の保有残高は増えていません。しかも、先ほど懸念した通り、まるで家計貯蓄の水準が上限であるかのように推移しています。

ここで、65歳以上の就業率も見てみましょう。





意外だったのは、昔の方が高かったということです。現在も、欧米諸国と比べるとかなり高い水準にあります。これは、農林業の割合が高いこと(高齢就業者の2割強)が大きな要因ですが、近年はサービス業の割合が拡大しつつあるようです。雇用形態別にみると全体の約5割が非正規雇用とはいえ、最近は再び緩やかに上昇しており、今後もこの傾向は続きそうです。

最後に、高齢者の貯蓄の推移も見てみます。70歳以上が減っていくのは仕方がないとして、60歳代が予想以上に頑張っています。特に、リーマンショックがあった2008年から2009年にかけて急激に落ち込んだにもかかわらず、その後ぐぐっと回復しているのは印象的です。





高齢化が進むなかでも家計貯蓄全体の減少が比較的緩やかだったのは、60歳代の貢献によるところが大きいと考えられます。もともと貯蓄額が相対的に大きい世代であるうえ、就業率もそれなりに高く(65~69歳の男性にいたっては、何と46.8%もありました)、貯蓄をほとんど取り崩さずに暮らしている人もいることになります。

というわけで、いろいろ見てきましたが、世間でよく言われている家計金融資産の1400兆円は、それ自体はあまり意味のある数字ではなく、実際に国債投資に回されて初めて国債の買い支えにつながること、これと家計貯蓄との差の大半を占める個人事業主の資金が国債投資に使われた形跡はあまりないこと、すでに家計貯蓄と国債残高がほとんど変わらない水準に迫っていること、高齢者が頑張っているためペースは案外緩やかであるとはいえ、貯蓄は減少傾向にあること…などにより、このままいけば近い将来、国債の発行ができなくなる可能性は大いにあると言えます。

国債の発行が止まれば、年金や医療費、公務員の給与など、さまざまな支払いが滞ることは避けられないかもしれません。既発債の元利払いもデフォルトするかも。でも、保有者はほとんどが国内の金融機関だから、例えばギリシャ国債が暴落し続けたみたいに長期にわたって売りたたかれることってあるのかなあ??

すでに価格水準が「理解できない」と海外の投資家からはとうの昔に見放されていた日本国債。それを単にほかに投資先がないという消去法で買い続けてきた日本の金融機関。結局、日本の財政が破たんするまで受け身の姿勢は変わらず、その時が来たらびっくりするほどのヘアカットを甘んじて受け入れ、不良債権でボロボロになり、税金が大量投入され、バブル崩壊を上回る悲惨な状態になる…かも。いずれにしても、保有者の大半が日本の金融機関という特殊な状況のなか、金利がどこまで上昇するのか想像がつきません。