04/14/11 (Thu)
東京でも放射線レベルが上がる時とは
原発事故から1カ月ちょっとが過ぎました。でも、現場の作業員が「例えるなら、今はまだ山を登る前に下から眺めている状態。山の高ささえわからない」と表現するほど収束への道のりは遠いうえ、「冷却機能の修理・点検⇒タービン建屋のたまり水⇒トレンチの汚染水⇒海水汚染」という具合に復旧作業がどんどん横道にそれており、さらに、微妙なタイミングでチェルノブイリ事故と同じ「レベル7」に引き上げられてしまうという、「非日常」の日々が続いています。

とはいえ、東電と政府の姿勢がやや軟化してきたことで海外勢が原発問題に関与し始め、さまざまなデータも開示され始めたので(その結果、例えば福島原子炉を含む各種データが一気に見れるhttp://atmc.jp/plant/vessel/とか、データ解析をしたい人のためのhttps://sites.google.com/site/radmonitor311/plotting_codesのようなサイトも充実)、だいぶ様子がわかってきました。きょうはそれらに基づいて、東京の状況についてまとめてみます。

下のチャートは、原発事故が発生してから現在までの東京の放射線量の推移を示したものです。これを見ると、最近落ち着いてきたなあと思う反面、なぜ3月15日に急激に増加したのか?同じようなことは今後も起こり得るのか?という疑問が沸きます。





ここでまずは、東京大学理学系研究科物理専攻長の早野龍五教授がまとめてくださった「3/15に何が起きたか?」をお読みになることをお勧めします。特に、「放射性物質を含む空気塊はどのように動いたか」と「3/15の各地の放射線レベル」は非常に有用です。

ここにあるように、15日に大量に放出された放射性物質を含む空気塊は、午前のうちに関東まで南下し、午後になって北上したと考えられます。私はこれを見るまで、福島で放出された放射線物質がそのまま東京や横浜の上空まで来ていたという発想がなく、非常に驚きました。以前こちらでご紹介した山内正敏さんが「放射性ダストは時速40kmで移動する」と書いていらっしゃったのを読んでいたにもかかわらず、です。

このため、今後も大量放出があれば、風向きや天候次第では、東京の放射線レベルも再び急上昇するリスクがあります。もちろん、今回影響をあまり受けなかった地域も同様です。なので、どういう時に大量放出が起こり得るのか、そしてそれが起こる可能性は今後もあるのかを把握しておくことはとても重要だと思います。

大量放出の原因として思い当たるのは、水素爆発とドライベントです。では、3月15日もそれに当てはまるのでしょうか?これを確認するため、政府や東電が発表した事故経緯の中から、「爆発」「ベント」「白煙」「黒煙」というキーワードに関わる部分を拾ってみたのが下の表です。1号機~3号機それぞれに原子力安全・保安院東京電力原子力災害対策本部とソースを分けたのは、表現に違いがあったり、発表内容が異なる場合に比較しやすいからです。4号機は直接関係なさそうだったのでスペースの関係で省きました。





これを見ると、3月15日に「ドライベント」という言葉は出てきていないことがわかります。東電にいたっては、「ベント」という表記さえもありません。さらに奇妙なことに、この日だけでなく、現在までのどの日も、そしてどのソースでも、「ドライベント」が行われたという記録は見つかりませんでした。ではドライベントは行われておらず、放射線量の急増にも関係ないのでしょうか?

そこで、「ドライベント」でニュースを検索してみました。…が、日本のニュースサイトは海外と違ってどんどん過去記事を削除してしまうので、こういう時の記録が本当に少ない…。やっと下の記事が見つかりました。(これらもいずれ消されると思うのでコピペしておきます)

2号機では15日にドライベントを試みたが、実際には排気されなかったという。
(2011年3月22日 毎日新聞)

東電は二十日夜、2号機の原子炉内の圧力を下げるため、放射性物質を含む水蒸気を外部に直接放出する「ドライベント」を十六~十七日に試みたが、失敗したと発表した。ドライベントでは、水蒸気を水に通して放射性物質を減らす「ウエットベント」の百倍の放射性物質が外部に放出されるとされる。報道陣は、ドライベントは環境への影響が大きいため公表を求めてきており、四日以上たっての発表に、驚きの声が上がった。東電側は翌日朝、試みた日を十五日未明に修正。情報の遅れだけでなく、信頼性にも疑いが生じている。
(2011年3月24日 朝刊 東京新聞)

2号機では15日にこの操作をしたが、実際に蒸気が放出されたかは不明という。2号機では15日に格納容器の一部が壊れたおそれがあり、そこから水をくぐらないまま蒸気が排気された可能性もある。
(2011年3月25日 08:55 朝日新聞)

21日には広報担当者が「きのう、2号機のドライベントは16~17日と話したが、確認したところ15日だった」と事もなげに前言を撤回。ドライベントは、原子炉格納容器内の圧力上昇などに対応するため、放射性物質を含む容器内の蒸気をそのまま外部放出する非常手段。原発外の環境にも大きな影響を与える事態にもかかわらず、東電側はその重要性をやり過ごそうとした。
(2011年3月28日 06:00 スポニチ)


うーん…実は私もほとんど記憶がなかったのですが、こうして改めて見てみると、発表の仕方はもちろん、ドライベントによる影響が実際にあったかどうかも、非常にあいまいなことがわかります。でも、早野先生のチャートによれば、放射性物質の大量放出があったのは15日午前3時頃と午前7時過ぎの2回です。特に1回目の放出の時間帯は他に要因が見当たらないなか、ドライベントを「15日未明に試みた」ということは(保安院と災害対策本部が15日午前12時2分に「ベント開始」としているのはこのことでしょうか?)、例え東電が「失敗した」とか「蒸気が放出されたかは不明」と思っていたとしても、結果的にはやはり影響したと考えるのが自然でしょう。

ただし、ドライベントをしようとしたのは第一原発なのに、1回目に放射線レベルが急上昇したのは第二原発のモニタリングポストだったことについては、謎が残ります。とはいえ、これによって外部に放出される放射性物質の量がウエットベントの100倍と推定されていること、今後もこれを行わなければならない場面は十分想定できることから、事前の報告もなく行われるのは国民にとって大きなリスクです。その意味でも、各種のモニタリングデータは注視している必要があると思います。

では、水素爆発はどうでしょう。水素爆発が起こったのは、実は放射線量が急増した15日ではなく、12日午後と14日午前のことでした。私は「水素爆発⇒放射線量の急増」と連想していたので、これは意外でした。(余談ですが、災害対策本部が「水素爆発」と明記しているのに、保安院は「爆発音」、東電は「大きな音があり白煙が発生」という書き方をしていて、それぞれの特徴がよく出ている気がします…)

ただし、早野先生の分析にもあったように、12日の水素爆発の際は、福島以外で放射線量が増加したのは女川原発のみで、「放射性物質は海上を北上し,太平洋に抜けたと(シミュレーションから)推定」されています。ラッキーであれば、そういうこともあるのでしょう。でももちろん、毎回そうとは限りません。なので今後も水素爆発が起こる可能性があるかどうかが問題です。

その意味では、原子力工学研究者からのメッセージ(東大大学院工学系研究科教授9人による)に、

- 今後、ジルコニウムと水蒸気との反応、あるいは水の放射線分解によって、格納容器の上部に水素が蓄積した場合、水素爆発が引き起こされる可能性は否定できません。水素爆発が起これば、格納容器の封じ込め機能が失われることとなり、ガスのみならず固体粒子状の放射性物質が大量に放出されることも予想されます

- 今後放出される放射性物質の量を予測することは困難ですが、仮に水素爆発が起こったとすると、放出量は「ドライベント」の場合に比べて、かなり多くなると考えられます。

と明記されていることは(特にこのメンバーでさえ?こういう意見だという点でも)非常に重要だと思います。

大量放出の原因としてもう1つ考えられるのは、上の表にあるように、2号機の圧力抑制室の爆発・損傷です。2回目の放出はこれと時間が近いので、可能性は高いと思われます。だとすると、水素爆発ではなくても、何らかの損傷が原因で爆発し、それが大量放出につながる場合もある、ということになります。

すでにあちこちが損傷していること(しかし近づけないためその詳細を把握することも完璧に修理することも不可能)、加えて、現在も続いている余震による影響も踏まえると、損傷による爆発は今後も十分に起こり得ると思います。さらに余震に関して言えば、その影響で外部電源が遮断され(実際に4月11日の地震ではこれにより注水が50分ほど止まった)、それが炉心溶融につながり…という最悪のパターンも考えられます。

ちなみに現段階での再臨界の可能性については、個人的にはこの方よりも早野先生の説明に納得しているので、ここでは水蒸気爆発は考慮しません。

まとめると、

  1. 大量放出の原因としては、主に爆発(水素爆発、地震を含む何らかの影響による爆発など)とドライベントが考えられる
  2. そのどちらも今後再び起こり得る
  3. 余震はそのリスクを高める
  4. 1が起こった場合は東京にも数時間で高濃度の放射性ダストが飛んでくる可能性がある
  5. 公式の発表にはバイアスやタイムラグ、不確実さが残るため、データを注視するべき


となります。