10/04/10 (Mon)
円売り介入の実態と税金
先月末、財務省が外国為替平衡操作の実施状況を発表しました。これはすなわち、9月に行なわれた円売り介入の総額を意味するわけですが、市場が推定していた2兆円程度を上回って、2兆1,249億円にも及びました。なんとまあ…。

さらに、これに先立つ8月中頃、外為特会の評価損が約30兆円に膨らんでいる、というニュースも出ました。30兆円といえば、年間の税収の8割以上に匹敵するほどの莫大な額です。なんとまあ…。

この2つの重大ニュースの意味や、その税金との関わりについて、本当に理解している日本国民はとっても少ない気がします。きょうは自分の頭の整理も兼ねて、それらについて書いてみようと思います

まず、「外為特会」とは財務省の「外国為替資金特別会計」の略で、簡単に言えば、財務省が為替介入を行うための特別会計のことです。経常黒字国である日本は長期的には円高圧力にさらされているので(1971年のニクソン・ショック以来、円は対ドルで長期の上昇トレンドにある)、介入としては主に円売り・ドル買いが行われてきました。

次に、多くの人が勘違いしている可能性がありますが、為替介入を実施するかどうかや、実施する場合の時期や額を決定するのはすべて財務大臣で、日銀ではありません。日銀は財務大臣の代理人として売買を行うだけです。よって、外為特会も財務省の所管です。つまり、今回の円売り介入と、その後発生するであろう評価損の責任は野田にあります。(付け加えると、野田という人はこの時期たまたま財務大臣だっただけで、金融のプロではありません。これが日本の政治の非常におかしなところ)

さかのぼって、現在の約30兆円もの評価損につながる円売り介入を行った当時の財務大臣は主に、谷垣、塩川、宮澤です。特に谷垣と塩川はそれぞれ総額で20兆円以上も円を売っており、当時の介入レートが今よりもずっと円安だったことから、現在のような巨額の評価損に膨らみました。





円売り介入の問題の1つとしてよく言われるのは、評価損が出てくる頃にはすでに財務大臣が変わっているため、責任を問うことができない、というものです。案の定、谷垣や塩川はこの件について知らんぷりです。

もう1つ、非常に重要な問題(個人的にはこれが最大の問題だと考えています)は、財務省は円売り・ドル買いによって得たドルをそのまま持っていても金利がつかないため米国債に投資するわけですが、その後に円安になっても、なぜかその米国債を売らずにそのまま保有し続けていることです。

下のグラフを見るとわかるように、谷垣、塩川、宮澤たちが行った50兆円を超す円売り介入から数年後、円は再び介入水準まで戻りました(丸で囲んだ部分)。もしこの時期に、保有していた米国債を売却して円に戻していれば、今のような評価損が出ることはありませんでした。





そもそも為替介入とは正式には「外国為替平衡操作」といい、円のボラティリティを抑制するための作業に過ぎないため、それによって得た外貨ポジションはその後速やかに相殺されるべきものです。つまり、外為特会のバランスシートは、円売り介入によって一時的に拡大しても、その後の米国債売却によってまたもとに戻されるべきなのです。歴代の財務大臣はそれをしてこなかった。やったらやりっぱなし。

では、この評価損は一体どうなるのか?そしてそのツケを払うのは誰なのか?…税金??それを説明するには、円売り介入における資金の流れを書く必要があると思うので、簡単にまとめておきます

まず、財務大臣は円売り・ドル買い介入をやるにあたって、売るべき円を調達しなければなりません。通常は、日銀がこれをいったん引き受け(=日銀から円を借りる)、それを使って円売り・ドル買い介入を実施し、その後速やかに市場からも円を調達し(=民間の金融機関から円を借りる)、これを日銀への返済に充てます。つまり、実質的には民間の金融機関から借りたお金、すなわち、国民のお金を使っているわけです。

以前、「圧勝とか、非不胎化とか」のところで、「介入資金が当座預金に与える影響は中立的で、介入は自動的に『不胎化介入』になる」という意味のことを書きましたが、それは、日銀から借りた円を市場に放出しても(=非不胎化)、その後間もなく市場からも同額の円を借りる(=吸収する)ため、すぐに不胎化の状態になる、ということでした。(ちなみに今回の円売り介入では、市場から調達せずに国庫余裕金などで対応する、みたいなニュースが先日出たので、2億円超はそのまま市場に残るようですが)

話を戻すと、円売り介入における調達サイドは民間から借りてきた円、ということになります。一方、運用サイドでは、円売り・ドル買いによって獲得したドルで米国債を購入します。つまり、外為特会のバランスシートには負債サイドに円建ての借金、資産サイドにドル建ての米国債が入り、米国債は円建てで評価されるため、その時々の円ドルレートに左右されるようになります。

…そして今。資産サイドには約1兆ドルの米国債が積み上がっており、これを現在の円ドルレートで換算すると約30兆円の評価損になるわけです。評価損とはあくまで「もし今、現在のレートで売却したらいくらの損が出るのか」という額であり、実現損ではありません。なので、円が再び過去の介入時近辺の水準に戻せば、評価損はほぼ消えます。

しかし、先ほども書いたように、過去にそういう水準まで戻す時期があったにもかかわらず、財務大臣は何もしませんでした。これはおそらく、「大量の米国債を売ることなどアメリカ様が許してくれるはずはないから、償還まで保有するのが事実上、唯一の選択肢」、という姿勢に基づいているものと推測します。

これが昔のドルだったらそれでも良かったでしょう。でも、今のドルはもはや以前のドルとは違います。今回の金融危機を境に、アメリカの経済は完全に変貌してしまいました。もう以前の状態には2度と戻らないでしょう。そして、ドルは遅かれ早かれ崩壊すると個人的には確信しています。

また、特に対円に関しては、先日の「マネタリーベースの日米比較」で取り上げたグラフを見ても、答えは明白です。1990年以来、日本のマネタリーベースが2.5倍にとどまる一方、アメリカは8倍近くにまで及び(ほとんどクレイジーって感じですが)、しかも今後も増え続ける予定です。日本がどんなに頑張っても、持続的な円安に導けるほどのマネーを放出することはできないし、する気もないでしょう。

とすれば、ドルはこれからも対円で長期の下落トレンドを維持することになり、外為特会の評価損を回復できる最後のチャンスだった2006~2007年頃の水準には2度と戻らない可能性が非常に高いと言えます。つまり、評価損は今後はさらに増える方向にあるということです。

ここで問題になるのは、この評価損はいつの日か実現されるのか?という点です。もしされるとすれば、外為特会は債務超過となるため、一般会計からの補助金、すなわち私たちの税金で埋め合わせることになります。(一応、評価損を考慮した積立金が20兆円ほど存在しますが、現時点ですでに10兆円足りない状態で、今後はその不足分がさらに拡大すると思われます)

こんな状況なので、ネットでは「われわれの税金を使って介入するな」という批判のコメントも目に付くようになりました。でも今のところはあくまで市中銀行からの借金でまかなっており、税金が投入されたわけではありません。

先ほども書いたように、米国債は償還まで持ち切るのが原則(?)のようだし、民間から借りている短期の円資金も借り換えを繰り返して永遠にまわしていけば、たとえ評価損がどれほど恐ろしい数字になろうとも、無視し続けることはテクニカルには可能だと思います。なので個人的には、できる限り無視し続けていくのではないか?と思っています。

でもそれはあくまで「できる限り」です。もしドルが崩壊すれば(切り下げとか基軸通貨でなくなるとか、いろいろな形がありますが)、米国債も暴落して紙くず同然になります。税金投入の可能性が出てくるのはその時でしょう。

いずれにしても、もう円売り介入はするべきではありません。円安を望むのであれば、効果がないうえに巨額の税金を投入させられる可能性大の為替介入(1年分の税収が軽く吹っ飛ぶ究極の無駄遣い)ではなく、円を刷るしかないと思います。